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山羊の腰麻痺について~金スマ「ゼットン君」の死の波紋

今日はちょっと話が長くなります。興味のない方はスルーしてくださいね。


先週の金曜日のテレビ番組で、ひとり農業を志した男性の飼っていたヤギが腰麻痺で急死した場面が放映されたそうです。わたし自身はその番組を見なかった(番組の存在自体よく知らなかった)ので、細かいところはわかりかねるのですが、何人もの山羊飼いさんたちのブログでその話題が取り上げられていて、ちょっとひとこと言いたくなりました。

その番組では、あたかも山羊の容体が急変して1日のうちに亡くなったように放送していたようですが、見た人によると、死んだときにはかなりやせ衰えていて、そんなになるまでにはかなりの期間があったはずだと思われる、とのこと。そして、そのゼットン君がまだわずか生後10か月だったということから、そんなに短期間で発病するのだろうか?という疑問。

あの番組については、いろいろといぶかしい点があるようですが、私はまずはちょっと気になったこの点、腰麻痺の発症する時期と急死することがあるのかどうか、について調べてみました。

今回調べてみて、とても詳しい研究報告を見つけました。
日本緬羊協会の「めん羊・山羊の重要疾病解説書(内・外寄生虫症腰麻痺腐蹄症)」
です。
19ページから腰麻痺の記事が載ってます。

知りたかったことがほとんど書いてあって、今まで見たなかで一番詳しいです。
一部抜粋しますと・・・・

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1) 発病時期

腰麻痺は蚊の媒介を必要としており、感染する時期は初夏から秋に限定される。感染子
虫がめん羊・山羊の体内に入ってから症状が出るまでの潜伏期間は、短い場合で2 週間、
長い場合は40 日位とされており、蚊体内での発育期間を含めると、蚊の出始めから1~ 1.5
カ月後に腰麻痺の発病が見られる。東北地域では7 月下旬以降が発病時期となるが、関東
以南ではより早い時期(6 月頃)から発生する。

2) 症状

腰麻痺では、障害を受けた脳脊髄神経の部位や範囲、破壊の程度によって、運動機能障
害の現れる部位や症状の重さが異なる。典型的な症状は、文字通り後躯の麻痺症状である
が、少し後肢が痛むかのように軽く足を引きずる程度から、歩くと腰がふらつく場合、起
立する際に人の助けが必要な場合、全く起立不能状態になる場合など様々な程度が見られ
る。突然に起立不能となることもあるが、たいてい発病の始まりは軽い症状で、時間が経
過すると重症化していく。また、後躯ばかりでなく、頭頚部に障害が出ることもあり、片
側の麻痺で斜頚を呈したり、顔面の麻痺では口唇が脱力し、涎を流したり、採食した飼料
が口からこぼれたりする。
多くの場合、腰麻痺の症状は運動機能障害に限定されており、内臓機能は損なわれず、
食欲・排糞・排尿があり、体温・脈拍・呼吸も正常である。指状糸状虫による神経組織の
破壊が軽微な場合は自然治癒することがあり、また、早期の治療により速やかに虫体が死
滅吸収された場合など、容易に健康を回復することができる。しかし、長期間起立困難な
状態になると、採食や飲水が不足して栄養状態が悪化し、段々と衰弱していく。また、体
下部の血行が悪くなるため皮膚や皮下識に褥創が生じ、そこからの細菌感染が全身に広が
り、死に至ることも少なくない。また、歩行できる状態に回復しても、筋肉の萎縮や軽度
の麻痺、跛行(びっこ)が後遺症として残ることもある。後遺症が軽度であれば、雌畜を
繁殖供用することが可能だが、雄畜を交配に使うことは難しい。

2) 治療
(1) 駆虫薬投与
腰麻痺の症状が出た場合は、予防薬と同じ薬剤の1~ 2 借用量を2~4日間連続投与す
る。薬剤により、虫体は死滅するが、すでに破壊された神経組織は回復しないため、投薬
しても症状の改善が見られないこともある。腰麻痺の治療では、いかに早く発病に気付き、
早期に治療を開始するかが、その後の回復状況を左右する。

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犬のフィラリアは、感染してから発症するまでにかなり時間がかかります。生後1年以内に発症するなんてことはないので、山羊の腰麻痺ではどうなのかな?と思ってましたが、これではっきりしました。「短い場合で2 週間、長い場合は40 日位」、意外と短期間で発病してしまうんですね。ゼットン君が生後10か月で発症したのは、ありえる話ですね。
(ちなみに、犬のフィラリアとヤギの腰麻痺の感染源となる虫は、同じ糸状虫の仲間ですが種類が違います。山羊から犬に移るとか、犬から山羊に移るということはありません。)


番組では急病のように編集されていたようですが、やっぱり「突然に起立不能となることもあるが、たいてい発病の始まりは軽い症状で、時間が経過すると重症化していく。」のが普通。しかも、死に至るまでには、「長期間起立困難な状態」になって「栄養状態が悪化し、段々と衰弱していく」わけですから、1日で悪化して死亡なんてことはまず腰麻痺では考えられないですね。

演出であのように編集されたのかどうかはともかく、山羊の病気について、多少なりとも知識があれば、最悪の事態は防げたでしょうに・・・・。

             *   *   *   *   *
 
かくいう我が家でも、最初に飼ったヤギはおそらく腰麻痺が原因で死にました。

まだ家畜診療所のことを知らず、どうも腰麻痺のように思える症状が出たときに、その山羊を初めに飼っていた親戚の人の紹介で近くの獣医さんに診てもらいました。
最初は、腰麻痺とは診断されずに、便がゆるかったので、お腹の薬しかくれず、様子を見ましょうと。
もらった薬を与えて1週間たっても良くならず、やっぱり腰麻痺じゃないでしょうか?と獣医さんに電話をして腰麻痺の治療用の注射をしてもらったのですが、あまり効果がなく、結局回復せずに亡くなってしまいました。
薬の量が不十分だったのかも知れません。注射は1回しかしてくれなかったし。
その獣医さんとはそれきりです。

その後、家畜診療所の獣医さんに診てもらうことができるのを知り、別の山羊がふらつくようになったときには、すぐに電話して診てもらいました。
治療の注射を3日間毎日往診してくれて打って、その後も1週間おきに様子を見にきてくれました。おかげで、ほとんど後遺症も残らずに回復したし、予防の薬も取り寄せてもらって定期的に予防できるようになり、ホッとしました。


実は今年の秋、子ヤギ3頭子育て中のメェちゃんも、まさかと思ったけれど腰麻痺にかかりました。
メェちゃんは、母親はザーネンのようでしたが、それよりかなり小柄だし、性周期もザーネンのように年に1回ではなくもっと頻繁だし、シバヤギとの雑種だと思います。同じころに飼い始めたオスヤギ(これもザーネン雑種)は、同じ環境にいて2年目の夏に前述のように腰麻痺にかかったのに、メェちゃんは全然症状がなかったので、てっきりシバヤギの血が濃くて腰麻痺に耐性があるものだとばかり思っていました。(シバヤギは腰麻痺に抵抗力があると言われています。でも、絶対かからないというわけではないようです。)
それでも一応他の寄生虫にも効果があるので予防薬は与えていたのですが、今年の9月に出産してからは、授乳期間は投薬しない方がいいだろうと、薬を控えていたんです。

そしたら・・・・産後1か月くらいして、メェちゃんが子ヤギに小突かれてよろけることがあるようになり、しばらくするとよろけて倒れたりするのを見て、いやな予感が・・・。
あわてて獣医さんに連絡して、控えていた薬を投薬。次の日、獣医さんが見えて、一目見て「腰麻痺だね。」「予防も治療も同じ薬だから、その薬でいいと思うよ。薬の効果がでるまで2・3日かかるから様子見て。」と、往診料もとらずに行かれました。

メェはちょっと後ろ脚を引きずる後遺症が残ってしまいましたが、今は回復して食欲旺盛、元気いっぱいです。
発症して腰がふらつくようになったときも、歩き方以外に異変はなく、食欲も元気もあって便も普通。それでもしっかり腰麻痺でした。

そう、食欲がなくなるのはかなり症状が進んでからですよ。それまでには、あきらかに見てわかる症状がいくつも出ているはず・・・です。


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番組の話に戻ると、ゼットン君が本当に腰麻痺だったとしたら、死ぬ当日まで気付かないなんてことがまずおかしい!
飼い主と取材班の怠慢を隠すために意図的にそのように編集してお涙ちょうだいの場面にしたてあげたのでは?と疑いたくなりますね。ゼットン君の飼い主はテレビのディレクターらしいですから、演出はお手のものかも知れないし。
わたしは番組見てないからはっきり言えないけど。

死体の映し方にも反論が出ているようです。まあ、そのへんは見た人でないとわからないので、コメントできません。

人間も含めて生き物の生き死にに直接対面する機会が少なくなった現代人は、ああいう番組で”感動”して”涙”するのでしょうね。”死”を見つめるのは悪いことではないと思います。
ただ、演出された偽りの悲劇の”死”を故意に作りあげていたとしたら・・・・
メディアの与える影響の大きさを考えたら、ゆゆしいことじゃないでしょうかね。
もしそうなら・・・ね。

by chikoblog | 2008-11-18 00:46 | ヤギ・ウサギ・その他の動物